虚空山布袋軒伝のサンヤです。布袋軒の産安は三夜・山谷・山野・産屋・参安などの色々なアテ字が用いられていますが、要するに「サンヤ」の曲です。布袋軒は伊達政宗の隠密だった虚無僧芭蕉が開いたといわれています。政宗は仙台城に移る際、長年軍事的に多大の功績のあった芭蕉に城下中央の一等地、札の辻(札番所があったため、こう呼ばれたとか)を下賜しました。以来、札の辻は「芭蕉の辻」と呼びならわされるようになったそうですが、芭蕉自身は街中の喧騒を嫌い、名取郡の増田近郊に移って、そこを布袋軒としました。この産安は、同事の鈴慕とも共通するフレーズを持つ竹調べで始まり、中音・高音と続きます。しばしば用いられる長二度の幅を持つ音の動き(律のテトラコルド)は、雅楽を思わせる明るさをもち、天の岩戸が少しづつ開かれ光が入ってくる様子ともいわれています。本演奏は、小梨錦水こなしきんすいー浦本浙湖うらもとせっちょうー桜井無笛むてきー岡本竹外ちくがいの各節を経たものです。浦本師の手は若干簡素だったことが、残された譜と音から窺われます。
CD 尺八古典本曲集[四]の3曲め