明暗真法流に伝わる秘曲。本曲界で最重要視されている三虚霊(古伝三曲ともいわれる)「虚鈴きょれい」「霧海篪むかいじ」「虚空こくう」は、それぞれ別に真・行・草の手があったらしい。書道の書体の違いを参考に命名されたのかもしれません。本来の虚鈴が、極めて簡素な古くて雅びた印象を与えるのにたいして、この「真虚鈴」は、構造は簡素なものの終始節音階で奏されることから一貫して我々を安心させ、なつかしさをかきたてるようです。日本音楽研究の権威、吉川英史きっかわえいし氏は「音楽の緩徐性、それは礼楽哲学の絶対命令・・・・・・」(『日本音楽の性格』)と述べておられますが、まさにそれを髣髴とさせるようなしみじみした曲であり、我々の中にある素直さや純真さが引き出されるような思いがします。なお、真・行・草の虚鈴は、各々相互に似通った曲調をもっています。
CD 尺八古典本曲集[四]の4曲め